
ここだけの秘密。視える占い師がいたとしたらどうする?
夜の街を走るタクシーの窓に、ネオンが流れていく。
主人公・紗季は、スマホを握りしめたまま深く息を吐いた。
別れたばかりの恋。途切れた未来。そしてどうしても捨てきれない未練。
静まり返った車内で、彼女は迷った末に電話占いの番号を押した。
コール音が消えると、落ち着いた女性の声が響いた。
「紗季さんですね。大丈夫、今日はちゃんと視えていますよ。」
名前を告げていないはずなのに。
紗季は一瞬、言葉をなくした。
「…あの、私…」
しぼり出すように言いかけた時、先生の声が重なる。

「彼とあなたが出会ったのは、三年前の春ですね。
あなたが職場を移った直後、あの人が何かと気にかけてくれた。」
胸が一気に熱くなった。
確かにその通りだった。
あの春、慣れない環境で戸惑う紗季に、彼はいつも優しかった。
支えてくれる手が、心を溶かしていった。
けれど彼には家庭があり、恋は叶わなかった。
「彼の性格はね、決して悪い人ではありません。
誠実で、人に優しくしすぎるところがある。
だからこそ、あなたを大切に思うほど距離を引こうとした。
あなたを傷つけたのは、その不器用さです。」
窓の外の灯りが滲んだ。
泣くつもりなんてなかったのに、涙が止まらなかった。
「紗季さん」
優しく名前を呼ばれる。
「あなたは恋に欺かれたんじゃない。
本気で誰かを愛せる人なんです。
その強さは、まだ次の光を見つけようとしている。」

電話越しなのに、まるで誰かに抱きしめられたような温かさがあった。
紗季は静かに涙を拭いた。
「…先生、私、また前に進めますか?」
「もちろんです。
すでにその一歩は始まっています。
あなたがこうして声を出した瞬間から。」
タクシーが自宅前で止まる。
深呼吸し、紗季は夜風の中に降り立った。
振り返った街の灯りが、どこか優しく見えた。
失恋は痛い。でも、痛みの中で人は変わる。
そしてきっと、また誰かを愛してしまう。
その未来が、今日より少しだけ明るいことを信じて——。
真美もし、視てもらった未来が明るかったら?



