
――あの日、初めて電話をかけたとき。
胸の奥が、少しだけ震えていた。
スマホの画面に映る“○○先生”という名前。
「この人なら、わたしの気持ちを分かってくれるかもしれない」
そんな直感だった。
彼のことが好きだった。
職場の人。笑うと少し片方の口角が上がるところが好きで、
小さな優しさに、毎回心が揺れていた。
でも――その人には、奥さんがいた。
知ったとき、世界の色が変わった。
いつものオフィスも、いつもの昼休みも、
どこか薄いガラス越しの世界みたいに感じて。

「もう好きになっちゃダメだ」
そう思うほど、想いは深くなる。
どうして人って、ダメな恋ほど燃えるんだろう。
――そんな夜、占い師の先生のページを見つけた。
口コミには、優しい言葉が並んでいた。
「話してよかった」「先生の言葉に救われた」
“恋に疲れた人”たちが、まるで羽を休めているみたいだった。
震える指で番号を押す。
呼び出し音が二度鳴って、
すぐに、柔らかな声が耳に届いた。
「こんばんは、○○です。……あなた、少し泣きそうね?」
図星だった。
声を聞いた瞬間、胸の奥がほどけて、
今にも泣き出しそうになった。
「好きな人がいるんです。でも、その人は――」
「うん、既婚の方ね」
息をのんだ。
何も話してないのに、先生にはすべて見えているようだった。
「名前も、生年月日も言ってないのに……どうしてわかるんですか?」
「ふふ、心の声ってね、言葉よりも雄弁なのよ」
その一言で、なぜか安心した。
そして少し、笑えた。
先生は静かに続けた。
「あなたは、彼に恋した自分を責めている。
でもね、恋をしたことそのものは、悪いことじゃないの。
人を好きになる力って、奇跡みたいなものだから」
涙が、ぽろぽろと頬を伝った。
その声はまるで、夜の静けさに包まれる毛布みたいだった。

「先生、わたし……どうすればいいですか?」
「まずは、自分を嫌わないこと。
彼を好きになった“優しい自分”を、抱きしめてあげて。
その気持ちは、必ず次の恋を導いてくれるから」
――その瞬間、胸の中に灯がともった気がした。
真っ暗だった夜に、ひとつだけ小さな明かりが灯るような。
電話が終わったあとも、しばらく眠れなかった。
窓の外の夜風が心地よくて、
ふと、彼の笑顔が浮かんでも、今夜は涙が出なかった。

「先生の言葉、すごいな……」
まるで心を透かして見られたようだった。
どんな占いより、どんな恋愛アドバイスより、
真っすぐで、温かかった。
翌日。
鏡の中の自分が、少しだけ明るく見えた。
会社で彼に会っても、無理に笑わなくてもよくなった。
“恋してること”を、やっと認められたから。
そして気づいたの。
恋って、報われるかどうかじゃなくて――
自分がどれだけ素直になれるかで、
その意味が変わるんだって。
「占い師の先生のおかげで、今があります」
そう言えるような恋が、きっとまた、訪れる。
だって、恋を諦めない女の子の物語は、
いつだってここから始まるのだから。

――夜が明ける。
新しい朝の光の中で、
わたしは少しだけ、恋がしたくなった。
真美報われない恋。貴方の行動と考えを変えることでいい方向に動き出すとしたら・・・?



