
蛍光灯の光が、やけに冷たい夜だった。
残業を終えたオフィスで、私はひとり、彼の机を見つめていた。
モニターの端に貼られた付箋。
「お疲れさま」「会議13時」――何気ないメモ。
でも、字の丸み、ペンのインクのかすれ具合まで、
全部、彼の“生活の一部”だと思うと胸が苦しくなった。
私はそっとその付箋を見つめたまま、
小さく呟いた。
「……よし。もう泣かない。」

数時間前。
電話占いの先生に泣きながら話していた。
「彼、最近ちょっと冷たいんです……私、嫌われたのかな。」
先生の声は静かで優しかった。
『あなたは悪くないですよ。彼は今、心に余裕がないだけ。
でもね――信じるってことは、強さなんです。』
その瞬間、胸の奥が少し温かくなった。
ああ、救われた。
“たくさん励ましてくださり、本当にありがとうございます”と、
私は涙ながらに言った。
――その夜、私は気づいてしまった。
励ましは、麻薬みたいに効くということに。
それから数日、私は変わった。
鏡の前で、口紅を塗る前に言う。
「よし! と気合を入れることができた」
それが呪文のように、心を落ち着かせた。
でも、同僚の彼女が言った。
「最近、○○さん(彼)奥さんとディズニー行ったらしいよ」
笑顔で言う彼女の声が、遠くで揺らめくノイズみたいに聞こえた。
私の中で、何かが静かにひび割れた音がした。

夜。
SNSを見ながら、彼の奥さんの投稿を探す。
“家族でお出かけ”の写真が、光の粒みたいに並んでいた。
笑顔。手。影。
画面の奥で、彼が幸せそうに笑っている。
――どうして、私はここにいないの?
指が勝手に動いた。
「いいね」を押しかけて、やめた。
代わりにスクリーンショットを保存した。
“彼の現実”を切り取って、自分のフォルダに閉じ込めるみたいに。
次の日、占いの先生に再び電話をした。
「先生、私……彼の幸せを見るのが辛いです。」
少しの沈黙のあと、
先生は静かに言った。
『あなたが苦しいのは、愛しているから。
でも、愛とは“支配”ではなく“手放す強さ”です。』
“手放す強さ”――
その言葉が、頭の中で何度も響いた。
でも、私にはどうしても理解できなかった。

その夜、またオフィスに残った。
彼の机の上には、昼に飲んだコーヒーのカップ。
少しだけ、彼の指の跡が残っている。
私は、そっとそのマグカップに触れた。
「よし、これで最後。」
そう呟いた瞬間、涙が勝手に溢れた。
彼の声、彼の匂い、
すべてがここにある気がした。
私はもう、泣かない。
そう決めたのに、
気づけば“泣かない”ための行動が、どんどん増えていった。
翌朝、社内がざわついていた。
「昨日、○○さんのデスク周り、少し荒らされてたらしいよ」
誰かが言った。
“荒らされた”という言葉が、やけに胸に刺さる。
私は知らないふりをした。
知らない。
ただ、触れたかっただけ。
あのマグカップの温度が忘れられなかっただけ。
夜。
帰り道の交差点で、ふと立ち止まる。
風が冷たい。
赤信号の向こう、笑い合うカップルの姿。

その瞬間、心のどこかで小さく笑ってしまった。
「別れの辛さに慣れることは、きっとないね……」
でも――
「それでも、私たちは人を愛さずにはいられないんだ」
そう呟いた自分の声が、
少しだけ、人間らしくて安心した。
遠くの街灯が滲む。
私はスマホを取り出して、電話をかけた。
「先生、また聞いてもらえますか?」

受話器の向こうから優しい声が返る。
『もちろんですよ。あなたの“よし”が聞けるまで』
私は、少し笑った。
「よし!」
その一言に、自分でもわからない安堵があった。
励ましは麻薬。
でも、きっとそれでもいい。
愛して、壊れて、また“よし”と言える。
それが、私という人間なのだから。
真美恋に行き詰ったとき、明るい未来がみえなくなったときに
少しだけ話せる相手がいると気持ちの持ちようが変わってくると思うんです。
たとえ前向きになれなくても、「よし頑張ってみよう」という気持ちが戻ってくる
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